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2.本が売れないのに
出版社は休眠しているものを含めると、全国に3000社とも5000社ともいわれる。印刷工場とともに東京の地場産業。いま、出版不況だが、就職希望の学生は多い。末端にぶら下がっている小生としては、血迷ったとしか思えない。
 出版社側としても好・不況に関わらず、採用には苦労しない。何行かの新聞広告を出せば、出版社の内情を知らずに優秀な学生が押し寄せるのだ。そして、中小の出版社に3年ほどいるうちに仕事を覚えて、また次の出版社に移るケースも多い。なお、当事務所のような弱小も含めて編集プロダクションは1000〜2000社ほど。出版社ともども、ファジーなのがこの業界の特徴だ。
 次に、出版希望の学生B子とエディターとの問答をお聞かせしよう。

エディター対B子の編集問答
エディター「うちのような零細でも、今までに2件の取引先の倒産で被害を受けているよ」
B子「倒産したのはどこ?」
エ「まあ、小さな出版社だけど、大手だからといって安心できないよ。給料の遅配がある、なんて噂が流れてくるからな」
B「出版社に勤めるなんて、カッコイイと思ってたけど…」
エ「それは幻想と考えたほうがいいんじゃないかなあ。女の子だって徹夜って場合があるし、汗くさいから徹夜したって分かるんだ」
B「なんかイヤだな」
エ「そうだろ、徹夜して頑張って制作した本が売れればいいよ。金一封で飲むビールは美味しい。でも、反対の場合は、本屋さんから戻されて在庫の山さ。今後も売れる可能性がなければ、もう紙屑といっしょで、トラックで引き取ってもらうんだけど、辛いもんだよ」
B「へえー」
エ「本は直販(※)を除いて委託販売だから、本屋さんは売れないと取次(※)にすぐ戻しちゃう。それにみんな、この本は絶対売れるはずだ、なんて考えて、いっぱい刷っちゃっている。また、いっぱい刷らないことには本屋さんで目立つところに置いてもらえないし…」
B「市場調査みたいなのはやるの?」
エ「うん、調査は一応やるけど、自分で担当した本への思い入れが激しいから、大抵は外すんだ。編集サイドと営業サイドの、責任の擦り付けも面白いけど、これはまたの機会に」
B「そうなの。結構、いい加減にやっているんだね」
エ「そうだね、出版社なんて水商売と同じで、浮き沈みが激しいよ。銀行だって、売れない本を抱えている出版社になんて貸したがらないんで、倒産も多いんだ」
B「いいこと、ないみたいね」
エ「うーん、でも、売れないと思っていた本が、急に売れたりするから、出版が水物って本当だよ。そんなときのために、みんな頑張っているのさ」

(※)直販:取次を通さないで、出版社がユーザーに直接、販売すること。一般書ではなく、専門書を発行する出版社がマーケットを絞って、電話、DM、訪問などの方法で販売する。
(※)取次:本の問屋さんでトーハン(東販)や日販がガリバー。出版社は新刊の見本を持参して取次部数を決めてもらう。どれだけ多くの部数を押し込めるかが、営業マンの腕の見せ所。多ければ書店で平積みされる確率が高い。部数が決まると過去の実績に基づいて自動的に、分野ごとに全国の書店に割り振られる。

(2002年11月 中山)