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19.出版・印刷の今昔 |
活版とオフセット 小生がこの業界に触れたとき、出版社側の編集作業は従来と大差なかったが、印刷所では活版からオフセットへの移行期に当たっていた。 活字の材料である鉛も1字では軽いが、1頁を組むと重量は嵩み、1冊分では大変な重さだ。活字の組版工程は、タオル片手の重労働なので、男性の職場だった。 活版印刷した書籍を重版するには紙で型をとった、文字どおりの紙型を用いた。しかし、多くの印刷所が活版を廃止したので、オフセットで印刷するしかない。書籍を1頁1ページ剥がしてフィルムに撮っていたものだ。 活版印刷の新刊をたまに書店で見かけると、習性とは治らないもので、紙面を思わずさすってしまう。活字を押しつけて印刷するため、凸凹しているのだ。この凸凹感が活版の良さだ。オフセットは平板印刷のためツルツルで、味もない。 活版かオフセットかの見分け方をもう一つ。表組があったら、罫線と罫線のつなぎ目を確認してみよう。活版では罫線をいちいち埋め込んでいるため、つなぎ目に隙間ができる。オフセットではしっかり繋がっている。 電算写植からDTPへ オフセット印刷に移行してきたのには、電算写植(略して電算)の普及が背景にある。 電算とは、活字組版の工程をコンピュータで自動化したもの。まず、似たような漢字ごとに区分けしてある漢字入力キーボードで、紙テープに穴を空けて文字原稿を符号化する。同時に、体裁や割り付けなどの情報をべつの紙テープに符号化する。次に、原稿テープ、割付テープを読み取り装置に通し、コンピュータにインプットして、磁気テープをつくる。それから、磁気テープを全自動写植機にかけて版下をつくる。見出しなどの大きな文字は手動写植機で作成して版下に貼る。 いまのDTP(机上出版)とくらべると、たいへん面倒な作業をしていたわけだが、当時は画期的だったのだ。肉体労働から解放された組版工程に、多くの女性オペレータが進出した。 ただ、電算も編集の作業としてはなんら影響がなく、原稿に赤をいれ、割付用紙とともに印刷所に渡していた。編集サイドの変化はワープロの登場を待たなければならない。 ワープロの普及とともに、文字原稿をデータとして渡すケースが増えていった。かなり高価だったパソコンが使われはじめたのは、PageMakerなどDTPソフトが開発されてからだ。出版社のなかには組版まで自社で行なって、データはネットを通して印刷所に送るようになった。 (注)電算の記述は『電算写植組版マニュアル』(セントラル電植協同組合)を参考にしました。 ネット社会と出版 最近、出版・編集をとりまく大きな変化として、インターネットへのシフトを感じる。身近な例をあげてみよう。 1.電車のなかではケイタイを操作している者が圧倒的に多く、本を読んでいるのは少数派だ。 2.調べ物をするときにまず向かうのはパソコン。図書館では目的物に達するまでにたいへんな労力を要する。 3.自己表現の仕方として個人のインターネット利用が増えてきた。ブログはいくつかのフォーマットから好きなものを選んで、簡単にネット上にアップロードできる。自らホームページを立ち上げるよりはるかに簡単だ。しかも、多額の費用を要する自費出版と比べて、ネットの料金は微々たるもの。 いま潮目が替わる時期なのは確かだが、出版物が消えてなくなるかといえば、一概には言えない。たとえば、座右にある岩波の国語辞典。いつでも、どこでもさっと引けるこの手軽さはパソコンにないものだ。また、ネット小説よりは、文庫を楽な姿勢で読みたい。 インターネットが進化しても、出版が得意な分野は生き残るのでは。私たちもそうした仕事がしたいものです。 (2006年9月 中山) |