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8.愛称、略称エトセトラ
 人それぞれに親から貰った名前あり。また物書き、芸術家、芸能人に筆名、芸名、雅号あり。それら正式の名前のほかに愛称、渾名(ニックネーム)があり、さらに略称もある。

人名 
 まず人名を取り上げてみよう。「私、榎本健一でございます」と自己紹介したところ、「あなたエノケンさんにそっくりですな」と言われ、かの一世を風靡した喜劇王も絶句したというエピソードが残っている。これなどは略称が愛称となり、そのまま世間に最も通用する名前になって、とうとう本名を駆逐してしまった例だろう。
 ところで、嵐寛寿郎のアラカン、伴淳三郎のバンジュン、木村拓哉のキムタクと、姓名の略称には男性の事例が圧倒的に多い。山田五十鈴がヤマイス、安室奈美恵がアムナミなんてのは聞かない。女性の場合は可愛らしい、美しいなどの形容が当てはまる愛称が求められ、勇壮なイメージやゴツゴツした感じは敬遠されるからだろうか。確かに新国劇の創始者・沢田正二郎のサワショウ、かつての共産党の顔・徳田球一のトッキューに比肩する女性の略称は思い出せない。何はともあれ言いやすい、聞き取りやすいものだけが流通(?)するのは間違いない。
 往年のSKDの大スター・水の江滝子のターキー、近年では小泉今日子のキョンキョンなどは、女性で愛称のほうが世間さまに浸透した代表例だろう。キョン2と言えばパンダのランランやカンカンを連想しちゃうが、同じ発音を2つ続けて愛くるしさを醸し出す命名法は、愛称、渾名の領域で昔から沢山見られる。けんけんと呼ばれる坊や、とんとんと言われる嬢やは、読者の周りにも実在していると思う。

人名以外 
 次に人名以外の略称と言えば、グループではミスターチルドレンがミスチル、ドリームカムトゥルーがドリカム、設備、施設なら百貨店のB1がデパチカ、歩行者天国がホコテンといった具合だ。 とにかくみんな忙しくて、することがいっぱいあるこの世の中、何でも簡略化して能率的に済ませようの精神がはっきり窺われるではないか。

組織・団体 
 組織・団体の場合を見てみよう。大学の学部名は文、法、商、理、工、農、医、薬の1文字を頭に付けるだけのものから、多数の漢字、カタカナを用いた長いものまでいろいろある。長ければ当然、短縮化が図られる。社会科学がシャカ、工学システムがコウシだ。  
 01年初めに中央省庁が再編成された。文部省は科学技術庁と一緒になって文部科学省に。運輸省、建設省などの統合で生まれた国土交通省。厚生省と労働省が1つになった厚生労働省。さすがにテレビやラジオの放送ではフルネームが使われるが、わざと縮めてみると文科省、それじゃ理科省は? 国交省って外務省のことなの。厚労省、ドジばかりでも功労賞?てな揶揄も出て来よう。

スポーツ界
 スポーツ界に目をやれば、プロ野球でミスターと言えば長嶋茂雄、ゴルフでジャンボは尾崎将司。この辺になるとまさに業界代表だ。個々の選手を追うと、ジョージ・ハーマン・ルースは赤ん坊(ベービー)とからかわれたところからベーブ・ルース、パリーグでホームラン王に輝いた近鉄のカール・デリック・ローズはタフな奴だから、タフィ・ローズが愛称だ。

もじり名
 ちょっと脱線して、もじり名について。俳優やタレントによくあるケースで、古くはバスター・キートンに倣って益田喜頓。ダニー・ケイから谷啓など。掛け算から取った山茶花究(3×3=9)もある。 あまり縮めたり削ったりして、訳が分からないのはいただけないが、ウィットやユーモアに富んだ愛称、略称は微笑ましいものだ。これからも明るい楽しいネタを探してみよう。

(2003年6月 石井)