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16.ゴキブリバスター3
ゴキブリだって反撃してくる。
身を捨てて俺に戦いを挑んでくるのだ。
だが、奴らと俺ではあまりに身体の大きさが違いすぎる。
もちろん病原菌ウィルスのように小っこくたって恐ろしい破壊力を
秘めてる奴はいるが、ゴキブリの場合、大したことはない。
奴らは無力だ。
奴らが俺に対してできることは、せいぜい“いやがらせ”のレベルだ。

先日こんなことがあった。
夜中トマトジュースを飲んでいて、
朝起きたときに、その缶に目がいった。
手にとって見るとまだ半分くらい残っている。
そのままクイッと飲んだら、
ミョモエーといった違和感が。
これは奴に違いないと直感した。
スチーブ・マクィーン扮するパピヨンは
マジョルカ島の刑務所の独房で
ゴキブリを食べたが、
俺はそんなことはしない。
そのまま台所に行って吐き出した。
ヘモグロビンの薄い血液のようなトマトジュースの
澱みの中に奴のひしゃげた肉体が埋もれていた。
無駄だ。
俺には通用しない。

今日はこんなことがあった。
例によって、親指の強烈な圧力で奴の肉体を壁に押し付けて潰してやった。
それから水道水で手を洗い、
冷蔵庫の製氷皿から氷をつかみ出して、オンザロックで焼酎を飲んだのだ。
飲んでいるうちに、ガラスのコップの底に何か茶色のものが沈んでいるのに気がついた。
何だろうと思って、焼酎を飲み干した後、氷を除いて見てみると、
それは奴の足だった。
奴と俺との関係がこんな風にしてまだ続いている。

嗚呼、俺はいつまでゴキブリバスターをつづけるのだろうか。
腐れ縁と言うやつか。
5年間のゴキブリバスターの生活が思い出されて、
柄にもない感傷に浸ってしまった。


(2005年7月 宍戸)