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1.なぜ本が売れない?
出版界の現状
 かつてはボーナスが多いと妬まれた出版界も、いまや不況業種である。
 最近、「本にする原稿を探している」「貴方の原稿を本にしてみないか」といった広告が目立つようになった。出版社や新聞社の出版部が広告主だが、目先を変えた自費出版のお勧めである。
本は例外を除いて書店の買取りではなく、委託販売。書店で売れなくて、出版社などに戻される割合、すなわち返本率は40%ほどだ。戻された本は倉庫で次の出番を待つが、廃棄処分になるものも多い。
 このような出版不況にあって、リスクを避けて手っ取り早く売上げをあげられるのが自費出版なのだ。なお、ここでいう本とは雑誌類を含んでいない。雑誌の場合は広告収入を見込めるからだ。

再販こそ命
 本の場合、最も費用がかかるのが初版。紙代、印刷・製本代は再販(増刷)になっても同じように必要だが、組版代(※)がほとんど要らない。初版さえ売り切ってしまえば、あとは利益率の高い再販。そのため、3冊出したうちの1冊が売れれば損はしない業種なのだ。原稿料も初版で出版社が買切りにしてしまえば、再販には必要ない。
なお、印税方式だと初版、再販ごとに「定価×発行部数」のだいたい1割が著者の懐に。
(※)組版代:レイアウトに沿って文字を組み込む代金で、最も費用がかかる。最近はコンピュータによるDTP(机上出版)で自ら組版するところもある。

売上げ不振の要因
 3分の1の割合でヒット作品が出れば成り立つ出版界は、それでもいま本が売れない。
1.インターネットの登場
 情報の新鮮さと量において考えればよい。本は数カ月かけて制作していくのが普通で、何年がかりの場合もある。これではインターネットのリアルタイムの情報には敵わない。また、本の情報はその書名に掲げられている内容に限られるが、インターネットではデパートのようにあらゆる情報が揃っている。いまや本を読んでいるより、インターネットに詳しいほうが尊敬される。
2.大型古書店の登場
 たとえば、古書のフランチャイズ「BOOK・OFF」。明るくて広い店内、従来の古書店のイメージを一新して客層も幅広い。価格もリーズナブルだ。新刊と見紛うものがここでは半額で手に入り、特価品コーナーでは全品100円だ。
いままで家庭で死蔵されていた本が、リサイクルという大義名分のもと、何回も市場に登場してくる。これでは体力のない新刊書店は太刀打ちできないだろう。個人経営の書店が次々と姿を消している。
3.図書館の充実・利用
 図書館も古書店同様、なんとなく古めかしいイメージがあったが、最近建設された図書館をみるとよい。明るくソファーのある館内は喫茶店のようで、読みたい新刊書もリクエストすればすぐに購入。人気のある本だと何十冊も用意している図書館もある。そして、不要になった本はリサイクル本として地域住民に無料で提供している。
4.娯楽資金の多様化
 特に携帯電話の普及は脅威だ。懐具合が変わらないとすると、いままで本購入に充てていた資金の減少を意味する。また、ゲーム、音楽CDなど若者の娯楽文化の多様化もまた、本が売れない一要因である。


(2002年11月 中山)